9月7日(土)、高次脳機能障害についてのヒューマンライブラリーCOZY対話カフェを行いました。場所は前橋市の居場所cocokara。以下に、司書役(コーディネーター)繁野の感想を書きます。
前日遅くまでアンケート作成をしていて寝不足。おまけに不安と緊張で体調は最悪。そんな中で、第1回目のCOZY対話カフェの日を迎えた。
本役(話し手)の後藤究さんは実際の写真をつかいながらお話しされた。プロのフォトグラファーの究さん。究さんにとって写真は単なる仕事ではなく、人生そのものだと感じた。そして、究さんのピュアな魂を強く感じた。私はこれまで何度も究さんとはお話ししているのに、不思議なことに、この日、初めてそう感じた。
家族の貝梅ひとみさんの話は鮮烈だった。自分のやりたいことをあきらめない、おかしいと思ったことは言葉にする。そうやって様々な困難を乗り越えた経験は、楽観主義と希望につながっていた。ひとみさんの強さがどこからくるのか聞いてみたかった。
高次脳機能障害は、今なお、おふたりの人生に大きな影響を及ぼしている。しかし、決しておふたりの人生を損なうものではなく、これまでもこれからも、究さんはずっと究さんであり続け、ひとみさんはひとみさんであり続けるのだろう、と思った。
おふたりの話を聞いて、私の体調の悪さは吹っ飛んだ。すごく元気をいただいた。おそらく、読者役(聞き手)全員がそうだったのではないだろうか。
輪になって話すと、感情が揺さぶられ、新たな発見や感動を生む。これは、大人数の講義や講演会では得られない何かだ。
6/23(日)、高次脳機能障害の自助グループcocokaraを開催しました。場所は、群馬県社会福祉総合センター301会議室。参加者は当事者4名、家族1名、支援者4名の計9名でした。今回のテーマは「仕事について」でした。
以下は、発起人 志栞さんからの当日の報告です。
テーマの「仕事について」以外にも様々な話が聞けました。
たとえば、
・時間に合わせることが大変。
・アルバイト先で障害をあまりよく思っていない人がいる。その人が最近、仕事を休んでいる。そうしたら、こんなにこの人のことが苦手だったと気づいた。障害は人から理解されにくい。
・仕事を始めて6年目。職場で苦手な人がいる。高い声の従業員がストレスになっている。大きい音、大きい声が苦手。体調面に波がある。
・7月に当事者である家族と沖縄旅行にいく予定。当事者の不安。
・7月のショートステイがわくわくどきどき。
・身体障害+高次脳機能障害の合わせが大変。それぞれで際立つ。平らに寝られない。平らに寝ると、胸痛、腰痛が出てくる。感覚が過敏。聴覚過敏。静かな映画なら見られる。音楽が好き。解体音×。ノイズ。圧迫感。服。触覚過敏。温寒過敏。間認識の過敏(隣の人が近いと×)。
・長らく旅行に行けていなかった。旅行先のベッドは、平らなベッドではなくリクライニングがないと難しい。
・旅行は、移動手段を考えるとどうしても県内になってしまう。電車やバスを乗り継いで行ける場所であれば行けるかも。しかし、バスの時間が複雑だと把握が難しい。高速道路のサービスエリアに憧れる。
・ハイウェイオアシスのような一般道からも入れる場所はどうか。草津温泉なら、駅から直通のバスが出ている。
・生活していて記憶することが難しい為、アプリ「タイムツリー」で補っている。
など、でした。
まとめ、感想
・ここに来て、ハイウェイオアシスやバスのルートなど新しいことが知れた。
・アプリを使って自分の苦手な部分を補うことが出来ることもあると知れた。その為には、自分の苦手なこと、自分の癖など
を知り、自己認識、自己理解を深めることが大切だと思った。
次回は7月28日(日)10時30分から、群馬県社会福祉総合センター301会議室で行います。ご興味のある方、是非、いらしてください。
障害のある人もない人も身近な地域の中でつながるためにはどうしたらよいのだろうか?
そんな疑問へのヒントになったのが、世田谷区 認知症とともに生きる 「みんなでアクションガイド」です。
世田谷区では、いくつであっても、認知症になってからも、世田谷のまちで、毎日を楽しく、元気に、自分らしく暮らし続けられるように、令和2年「世田谷区認知症とともに生きる希望条例」を施行しました。「みんなでアクションガイド」は、ともに暮しやすいまちになるためのガイドブックで、3つのステップに分かれています。
ステップ1
認知症のことを知ろう。
認知症というと、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など原因疾患や中核症状、行動・心理症状(BPSD)などの医療的な解説が多かったのですが、ここでは認知症を「暮らしの障害」と捉え、その特徴を次のように紹介しています。
完全な予防策はなく、誰にでも起こる
少しずつ始まり、長い経過をたどる
支障は増えていくけれど、自分はいつまでも自分
できないこともあるけれど、できることもたくさんある
環境で状態が左右される
また、認知症のことを知るためには、認知症体験者に聴こう、声から学ぼう、とあります。生き生きと暮らす4人の認知症体験者の声が掲載され、無理と決めつけたり、本人抜きで進めずに、どんなときでも「本人の声を聴くこと」、「本人が自分なりの思いを伝えること」をスタンダードにしていこう、と綴られています。
そして、認知症の古いイメージ(オールドカルチャー)を新しいイメージ(ニューカルチャー)に変えていこうとあります。
それは、
認知症は自分ごとで、そなえが大切
いちばん困っているのは本人
医療まかせにせずに、みんなで一緒に暮らしを楽に
本人が自分のチカラを活かして活躍する、支え合う・・・
私たちの中のイメージが変われば、地域の中で様々な可能性が広がります。認知症があっても、働くこと、お買い物やおしゃべり、趣味活動やスポーツなどを一緒に楽しむことができます。
ステップ2
自分ごととして考えてみよう。誰かと話してみよう。
「みんなでアクションガイド」には、認知症についての自分なりのイメージや自分がこれからも大切にしたい暮らし方や望みについて記入するページがあります。記入したら、その望みを誰かに伝えてみようとあります。これからの「そなえ」として大切な一歩になるとあります。
ステップ3
地域の中にいるさまざまな人とつながろう。
実際に行動するためのステップです。
まず、これまでのつながりを大切にしようと書かれています。
あまり仲間のいない人、会える人が最近減ってきている人もいると思います。その場合は、地域包括支援センターを窓口にした、新たな出会いの場である「アクションチーム」を紹介しています。
アクションチームとは、望みをカタチにする場。
①まずは、集まろう
②望みを語りあってみよう
③できることを見つけよう
④できることから、アクション!
世田谷区では少しずつアクションチームの活動が始まっているそうです。アクションチームで作った「希望の木」や「アクションマップ」などの例が掲載されています。
これならできそう!楽しそう!一人ではできないけど、誰かといっしょなら活動できそう!と感じました。そして、こんな仲間のいる地域であったら、いつまでも暮らしていけそうです。
東京は地方に比べると、血縁や地縁が少なく、人々のつながりをつくることが様々な分野で急務となっています。遅かれ早かれ、前橋や高崎などの地方都市でも同じような道をたどることになるのでしょう。
そして、認知症だけでなく、人生の途中で障害をもつことも年々増えています。その時に、周囲が困るから医療にまかせよう、本人は決められないからまわりが決めてあげよう、本人は支援されるだけの存在、と決めつけられてしまったら、どんなに生きているのが苦しいことでしょうか。
認知症体験者、障害体験者の声からもっと学び、どうしたら地域の中で希望をもって生きられるのかを一緒に考え行動していきたいと思います。ひとりでは難しくても、集まれば何かができる。誰にとっても、いつか行く道ですから。
長文を最後まで読んで頂きありがとうございます。
地域包括支援センター東(あづま)は、前橋市川曲町にある「あじさい園」の中にあります。
この日はスタッフの皆さまとお話しできる、貴重な機会を頂きました。
まずは、高次脳機能障害のある人の居場所cocokara(ここから)についてご説明させて頂き、その後、意見交換をしました。
これまで私が訪問した施設では、どこも高次脳機能障害のある人の相談は少ないとのことでした。そのため、本人や家族は孤軍奮闘されているのではないかと考えていました。
ここでは、それが良い意味で裏切られました。地域の支援機関や家族から深刻な相談が寄せられているそうです。「問題が大きくなる前に、是非相談してほしい」とおっしゃっていました。
地域包括支援センター東を訪問して、私は勇気と希望をもらいました。ここには、強くて軽いフットワークを持つ、心優しき相談員の方々がいました。それは、私が昨年までいた世田谷の相談員の姿と重なりました。
今、困っている高次脳機能障害のある本人や家族の方、お近くの地域包括支援センターに是非ご相談してください。遠慮する必要はありません。もちろん当会にもどうぞ。
高崎市にある就労移行支援事業所サンキャリアの藤田センター長が当会の居場所cocokara(ここから)をご訪問されました。
サンキャリアは今年の5月に開設されたそうです。cocokaraは3月からなので、親近感がわきました。高次脳機能障害のある人はまだ通所されていないようです。
通常の就労移行事業所と一味違うと感じた点は、各プログラミング言語などを学べるITプロフェッショナルコースがあること、事業所利用にかかわらず広く参加できる「少人数でまったり交流する会」を開催されていることでしょうか。地域の中に、連携できる機関が増えることは嬉しいことです。近いうちに、こちらからもご訪問させてください。令和4年度事業報告書、令和4年度決算書、令和5年度事業計画書、令和5年度活動予算書が承認されました。
また、会のビジョンが以下のように採択されました。
・高次脳機能障害のある人と家族の『やりたい』を実現できる地域社会をつくる
・障害があってもなくても、地域に暮らす全ての人が互いに励まし合える地域社会をつくる
そして、社会参加と回復を支える居場所の名前が「cocokara」に決定しました。
cocokaraの利用料についても検討し、特に発症や受傷から2・3年以内の人が負担少なく利用できるように『cocokara立ち上げキャンペーン』を行うことになりました。7月から開始します。終了時期は未定です。
cocokara立ち上げキャンペーンによる利用料(2023年7月~):
初回相談とお試し1回は無料(現行通り)
その後、月に2回までは1回につき1000円(現行通り)
月に3回以上利用する場合は、何回利用しても無料(cocokara立ち上げキャンペーン)
⇒利用料は月に最大2000円までとなります。
※ 月が変わると利用1回目に戻ります。
有意義な意見が続き、短い時間でしたがとても充実した総会でした。
前橋市高井町にあるNPO法人麦わら屋の生活介護事業所と就労継続支援B型事業所を見学させて頂きました。事業所は大きな古民家風の建物で、別に倉庫のような建物もあり、畑もありました。今年で開設8年目になるそうです。
ご縁のきっかけは、麦わら屋のグループホームサニーとぐんま脳損傷者地域拠点プロジェクトの入っている建物がお隣どうしだったことです。
5月には、イオンモール高崎で開催されたアート展『一緒にいることが当たり前だ展!!!!!』も拝見しました。「一緒にいることが当たり前」という言葉に強く惹かれたからです。前橋に戻って感じたことの一つは、街を歩いていても障害のある人達にほとんど出会わないということでした。車社会ということもあるかもしれませんが。
今回、事業所を見学させて頂き、すごいなと思ったのは、作業の種類が豊富なことでした。箱の組み立てなどの内職作業、アート活動(漫画、PCを使ったイラスト作成なども、ユーチューバーもいらっしゃいました)、めだか飼育、農作業、味噌作り(この日は容器のラベル貼り中)など、身体の動かし方も頭の使い方も異なる作業。これなら得意なこと、やりたいことが見つかるような気がしました。だから、皆さん、作業に集中できるのですね。ちなみに、今は、高次脳機能障害のある人は利用されていないそうです。
また、昼食は施設内で職員が作っているとのこと。美味しくて暖かい食事を食べられるのは最高だと思います。
麦わら屋の理念は『地域でともに生きる社会をつくる。』こと。私たちの理念とも共通するところがあります。障害があってもなくても、地域で暮らす全ての人が互いに励まし合える社会を目指し、ともに頑張っていきたいと思いました。
お忙しいところご対応ありがとうございました。
2022年中は、高次脳機能障害の関連施設に訪問してお話を伺いました。
2023年度は、高次脳機能障害に直接関係していなくても地域で活動している支援団体を訪問し、お話を聞かせて頂く予定です。
それは、高次脳機能障害のある人を支えるためには、支援者同志をつなぐ輪が必要だと考えるからです。一機関一職種だけでは支援は難しいです。多機関・多職種の支援者、関係者、住民などのネットワークができ、うまく機能したら、みんながもっとハッピーになれるに違いない!
さて、5月19日、前橋市にある一般社団法人みらいのいばしょ研究所におじゃましました。
不登校支援のことで悩んでいた時に、理事長の代田さんをご紹介頂いたのがご縁です。
みらいのいばしょ研究所が設立されたのは今から約2年前。不登校、ひきこもり、発達障害などの子どもや若者の支援を行っている団体です。約1年前にいばしょ「みらいば」を開所。フリースペース、フリースクールとして、自由に過ごせる時間と空間、楽しさを育む余暇活動、就労の準備や訓練、心理相談等を行っています。
私の見学した日には数名の若者が集まり、何やら楽しそうにおしゃべりをしていました。
表情も声も明るく、伸び伸びとされている印象を受けました。壁の少ない広々とした空間でリラックスできます。公認心理士である代田さんのやさしい相槌に、私もとても楽しくお話しさせて頂きました。
ご興味のある方は
みらいのいばしょ研究所 | 不登校支援、オンライン家庭教師、公認心理師対応 | 群馬県前橋市 | Maebashi, Gunma (mira-iba.org)
不登校、ひきこもりも 高次脳機能障害も
家庭や学校や社会で生きづらさを抱えていること
孤独になりやすいこと
1人の支援者では支えきれないこと・・・などが共通しています。
障害の有無、障害種別、分野にかかわりなくともに楽しめる場がほしい・・・と思いました。市内にはほかにも様々な居場所があります。居場所マップを作りたいです!(繁野玖美)
晴れ渡る空、つめたい風も心地良い1月最後の日曜日、東京駅近くの会場で高次脳機能障害ピアサポーター準備研修会が行われました。主催者は世田谷にいた頃に大変お世話になった、長谷川幹氏と山口加代子氏です。
70名以上の方(ほとんどが障害当事者とご家族)が、東京はじめ関東各地から参加され、会場は熱気で包まれていました。参加者の期待の大きさが伺えました。
この日は長谷川氏による「ピアサポーター」の説明、グループワークを通してピアサポートの体験、ピアサポーターとして実際に活動している高次脳機能障害のある方のお話を聞きました。今後は、それぞれの地域で、高次脳機能障害のピアサポーター養成に向けて活動が始まります。
今回参加された方の中には、すでに自主グループを立ち上げ活動している障害当事者の方もいました。ご家族、当事者、支援者のニーズや視点はそれぞれ異なります。障害当事者がゆったりのんびりと気持ちを語り合い、互いに支え合える社会参加の場が今後はより必要とされるでしょう。
私自身も世田谷区で活動している高次脳機能障害者の自主グループ「リンゴの木」のメンバーの方々の、同じ障害のある方への深い理解と共感のまなざしにたびたび接し、頭の下がる思いを何度も経験しました。障害当事者の考えや思いをよく聞き、支援者も支援メニューを変えていく時にきている気がします。
なお、今春オープン予定の、ぐんま脳損傷者地域拠点プロジェクトの「居場所」ですが、ようやく場所が決まりました。新前橋駅の近くです。次回の活動報告で詳細をお知らせします。
群馬県立障害者リハビリテーションセンター自立支援課を見学させて頂きました。自立支援課(以下県リハ)は障害者総合支援法による自立訓練(機能訓練、生活訓練)を実施しています。パンフレットによれば、高次脳機能障害を補う代償手段を獲得して日常生活や社会生活の向上を目指す場合は生活訓練を、身体障害による身体機能の維持や日常生活動作の向上などを目的とする場合は機能訓練を選択することになります。
施設にはふんだんに木が使われていて、清潔で温かい雰囲気がしました。ゆったりと落ち着いてリハビリに取り組める訓練室でした。スタッフも多く、一人一人の状態に合わせた個別対応が行われていました。なお、現在はコロナ禍もあり、利用者数は少なく、調理訓練や多くの利用者が一堂に会するグループ訓練などは行っていないとのことでした。
県リハへは県の高次脳機能障害支援拠点機関である前橋赤十字病院の支援コーディネーターから紹介されることが多いそうです。また、高次脳機能障害の家族会からの紹介もあるそうです。
コロナの影響もありますが利用者数はあまり多くないとのこと、もしかしたら知る人ぞ知る施設になっているのかもしれないと思いました。一般的に回復期病院を退院すると(疾患や年齢にもよりますが)介護保険につながる可能性が高く、ケアマネジャーがどのくらい障害福祉の制度や施設情報を知っているかによって、県リハなど障害福祉サービスの利用状況が変わってきます。これは全国的な傾向で、いかにケアマネジャーに障害福祉サービスについて理解してもらうかが重要となります。
さて、今日は実際の生活訓練も見学させていただきました。利用者の方から丁寧にこれまでの生活を聴きとり一緒に自分史を作る作業を行っていました。また、別の利用者の方からは「高次脳機能障害と僕」というプレゼンテーションも聞かせていただきました。その方は小児期に発症した高次脳機能障害と身体障害のある方で、これまでの自分の行動や気持ちを内省し、本人曰く「障害者の開き直り」までの経過を丁寧に分析され発表されていました。とても頭の良い方だと思いました。
その中で、心に残ったのは、「これまでお金がほしいから稼がなくてはと思っていたが、障害年金を頂けるようになって本当はやりがいや目に見えない物の大切さを求めていたことがわかった」「障害を受け入れるとは諦めることではなく頭を切り替えること」「誰かがわかろうと共感を示してくれることが背中を押すことにつながる」「大切なのは生きやすくすること」「一番大事なのは介入の手をやめないこと」とおっしゃっていたことです。また、自分で選び、自分で気づくことの重要性を強く訴えられていました。私たち支援者は障害のある方の黒子として、あきらめずに伴走していくことが必要であると感じました。
素晴らしいプレゼンテーションをお聞かせいただき、ありがとうございました。良い学びをさせて頂きました。なお、2023年2月に県リハで支援者向けの研修会が開催される予定で、その時にこのプレゼンテーションを聞けるそうです。ご興味のある方はぜひ県リハに問い合わせてみてくださいね。
社会福祉法人群馬県社会福祉事業団 群馬県立障害者リハビリテーションセンター TEL:0270 24 2678
最後までお読みいただきありがとうございました。今年もあとわずか、よいお年をお迎えください。
<これまでの経過>
Aさんは50歳代の男性です。自動車関係の製造部でお仕事をされていました。クモ膜下出血を発症されたのは、今から4年前、ご自宅でのことでした。救急搬送された病院で手術を受けましたが、その後、血管攣縮による脳梗塞を併発し、高次脳機能障害が残りました。急性期病院からリハビリテーションの専門病院に転院し、合わせて約8か月間入院しました。
ご自宅に戻ってからは、病院の外来や教習所などで自動車運転の評価やリハビリテーションを受け、運転が可能となりました。通勤手段が確保されたため、発症から1年後に復職しました。復職に当たっては、製造部から間接部へ配置転換となりました。
<高次脳機能障害の症状>
Aさんの高次脳機能障害の主な症状は失語症と軽度の注意障害でした。失語症については、ある程度の言語理解は可能でしたが、自分の言いたいことを言葉で伝えられず、平仮名も書けなくなっていました。このため、いつもイライラしていました。ご家族もどうしたらいいのかわからず思い悩む日々でした。
<現在の状況>
発症から4年経ち、今はパソコンも打てるくらいに回復しました。仕事も継続できています。Aさんは時々、一人でカラオケに行ってストレスを発散しています。
<ご家族の気持ち>
発症直後は、高次脳機能障害の説明を受けても理解できず、Aさんへの接し方に思い悩む毎日でした。医師やセラピストは質問すれば答えてくれるけれど「もっと相談にのってほしい」「自分の気持ちをもっと聞いてほしい」といつも思っていました。
「他の人はどうしているのかな?」と思っても、性格的に自分から家族会などに連絡する気にはなれませんでした。また、自分達にはもう一歩手前の場所が必要だと感じていました。しかし、もし病院の相談員やセラピストが繋いでくれたら、もしかしたら連絡したかもしれないと思うそうです。
振り返れば、病院でのリハビリテーションには医療制度の規定があり、当事者や家族の意思通りには継続できない現状がありました。医療従事者が忙しいのは理解しているものの、「私の話をもっと聞いてほしい」「ちょっとでいいからアドバイスがほしい」という想いがありました。話せば安心できたので、きっと心の支えがほしかったのだと思います。
Aさんのご家族の話を伺って
ご家族の不安な気持ちに寄り添う支援がいかに大切か痛感しました。安心してもらえるよう、必要な情報や今後の見通しなどをわかりやすく伝えていくことが必要だと思います。また、その方にもよりますが、当事者や家族が自ら情報を見つけ自分から動くことは難しい場合もあります。支援者は正しい情報を伝え、丁寧に繋いでいくことが大切だと肝に銘じました。
「病院でのリハビリテーションには医療制度の規定があり、当事者や家族の意思通りには継続できない現状がある」という言葉は胸に響きました。病院でのリハビリテーションが終了しても、地域で専門的なリハビリテーションを継続できるよう、微力ながら努力していきたいと思います。
障害者総合支援法による相談支援事業所2か所、介護保険法による居宅介護支援事業所1か所を訪問しました。
いずれの事業所も高次脳機能障害のある利用者は少なく、全利用者の1割以下。特に介護保険領域では、麻痺のない高次脳機能障害のある方は要介護の認定がでないことも多く、ケアマネジャーのかかわりは少ないとのことです。
紹介元は病院のソーシャルワーカーが多く、相談の主訴は「退院後もリハビリを継続したい」「仕事がしたい」「自宅で生活したい」などが多いそうです。
支援の効果としては、リハビリを継続することによって一人で週5日通所できるようになった、ヘルパーの援助を受けて生活がまわるようになったなどがあるそうです。また、対応で困ることは、「抑制がきかない」「急に怒り出す」「約束を忘れる」などの高次脳機能障害の症状によって調整に時間がかかること、障害認識の問題から障害者施設への通所に二の足を踏む方が多いこと、5年10年と長期にフォローする場がないことなどを挙げておられました。ご協力くださった相談員の皆さま、ありがとうございました。
気になったのは、高次脳機能障害のある利用者が少ないこと、これは困っていても自ら声を上げることが難しいからではないでしょうか。
11月1日、高次脳機能障害の主管課である群馬県健康福祉部障害政策課精神保健室にお伺いし、お話を伺いました。
まず、昨年度に行った調査についてです。
結果は、「高次脳機能障害に対応できる医療機関のリスト」として群馬県のホームページで公開されています。
https://www.pref.gunma.jp/02/d4200080.html
診断書作成については、県内の多くの病院が可能とのことでした。しかし、診断書と一口に言っても、その種類や用途は多岐にわたります。例えば、障害者手帳、障害年金、労災、傷病手当金等の申請、介護保険や障害支援区分の認定、ハローワーク等でも求められることがあります。今回の調査では、診断書の種類については調査していないため、希望する診断書を書いてもらえるかは、事前に病院に問い合わせが必要とのことです。
また、リハビリテーションについても多くの病院が可能と回答していますが、これも入院リハビリなのか外来リハビリなのか、身体機能面のリハビリなのか高次脳機能面のリハビなのか等については、やはり事前に病院に問い合わせをした方がよさそうです。担当者の方からは、今回の結果は、情報を得る時の「きっかけ」として使ってほしいとのことでした。
次に、群馬県の高次脳機能障害のある方がどのようなことに困っているのかについてはお伺いしました。
昨年度の相談実績ですが、高次脳機能障害支援拠点機関である前橋赤十字病院ではのべ1200件、実人数は153人とのことです。私の印象では少ないと感じました。この数字からは支援を受けずに地域に埋もれている当事者の方が多いのではないかと推測しました。
背景には、情報周知の問題、地域での支援サービスの少なさ、関係機関ネットワークが乏しいことなどが考えられます。県の担当者の方も周知やネットワークの問題を県の課題と捉えておられました。
高次脳機能障害への支援には、行政、医療機関、支援機関のネットワークが必要です。特に、行政の役割は大きいと感じています。 県には今後も一層頑張っていただきたいです。